wooden or brass ? part4
「え、こっちの方ってホテルとかある場所だよね??」
「うん、でもなんもしないよ。俺たちは近くの川を見にいくだけだしね」
ーーー
あれから2週間程か、ナンパをしに街へ繰り出して不発に終わってからは僕は二度とナンパなんてしないと思った。
いま思えば、俺なんかがナンパすること自体がナンセンスなのだ。
それに本当にナンパしてるやつなんて、ロクでもないやつしかいない、そう思うことにした。
でもそう考えようとしても、ナンパのことは頭の中に留まっていた
出会いに困らない、金もかからないのがナンパの魅力だからだ
でも勇気がでないからできない。もどかしさが続いた
だがある日、信じられない光景を僕は目撃することになった。
夜頃、学校サボりで札幌駅を歩いているところ、彗星の如く、その男は現れた。
身長高めの男の人がミンティアを片手に持ち、そして通りすがりの女の人の後ろにわざと落としたのだ。
当然女性は驚く。でもすかさず、男はトークを広げていく。
そして、和んだのだろうか、女性は聞き入ってるではないか。
その後、二人は連絡先を交換し、その後男はバイバイと手を振り、女の人は満足感を感じていたように去っていった。
立ち去る女性の姿を例えるなら、
ラーメン二郎でオーダー後の待ちに待った二郎ラーメンのどんぶりが目の前にどかんと置かれたジロリアンの待ってましたの満足感と同等、といったところだろう。
※ラーメン二郎は食べた後よりも食べる前の方が幸福度が高い。
僕は魔法でも見ているように思えた。
でも、すぐに我に帰った。
そして、すぐにある考えが思いついた。
俺を変えるきっかけはここしかない
あの人にナンパのやり方を聞くしかない…!
僕は考えるのをやめた。
そして足だけを動かし、その男の人の方に向かった。
考えるな、前だけ進め。
女性に声をかけるよりは多少マシだったが、さすがにまだ恐怖はあった
応援団所属で大声には自信があった。
でもその人に声をかけたときの声量は本当に虫の息程度といっていい。
今思うと情けない話だ。
「あの、さっきのなにをしていたんですか…?」
それでも僕は精一杯その人に話しかけた。
すると相手は最初は戸惑っていたけど、気さくに話してくれた。
「あぁ、ナンパだよ やってみる?笑」
断られたらどうしよう。
話しかけた刹那、そんな思いもあり、まさに賭けだったが、なんとか首の皮一枚つながったようだ。
僕らは場所を移して、人だかりを避けるところへと向かった。
その後は彼とは仲良くなり、意外にもすんごい丁寧に教えてくれた
さっきやっていたミンティアを落とす行為も実はナンパの一種であるらしい。
※詳しくは彼との秘密なのだが、ミンティアを使った手法は彼が初めてナンパに成功したときに使った思い入れのあるものらしい。ただし、普通のナンパよりもミスったら普通に恥ずかしい。
俺はこのミンティアナンパを始め、彼からはナンパの基礎を教えてもらうことになった。
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あれから何週間か経った
僕はトライアンドエラーを繰り返しながらナンパを続けた。
なかなかうまくはいかなかったけど、一歩踏み出すことはできた。
僕はあの後もスタンさん(その人のあだ名)と連絡を取りながら、ノウハウを教えてもらったりした。他にツイッターを通して仲間もできた。
発見もあった
スタンさんに教えてもらった、ミンティアルーティンを急須に変えるアイデアを思いついたのだ。
これのメリットとして、急須を使えばお茶をしに行こうという会話に持ち込めやすいからだ。
僕の急須ルーティンはこうだ
まず、最初に声をかけ、こちらの存在に気づいてもらう
次に軽くお茶でもしよう!と誘う
ここで木製の急須を出す。
ここで笑ってくれる人もいるが、これではまだ足りない場合もある。
ここで二の矢として、もう一つの急須の出番が来る。
ダイソーで買った安い真鍮製の急須だ。
「しょうがないな〜じゃあ、こっちの真鍮製の急須のほうでお茶するのはどうかな(^^)」
ここまでくるとだいたいウケる
女の子側もまさか第二の急須なんてあると思わないので、呆気にとられることになる
笑われせて、うまく誘えばこっちの勝ちだ。
〜〜〜〜
そしてついに、このルーティーンを駆使したナンパで俺に確変が起こり出した。
それはラーメン二郎を食いにいっている時に訪れた。
その日はジロリアンとしてありえない失態を犯してしまった、恥ずべき日だった。それは列に並ばないで、席に座るというギルティーを犯し、二郎の店長に怒られたのだった。僕のジロリアンとしてのプライドはズタボロだった。
しかしラーメンが出来上がるまでに待っている間、幸運がやってきた。
「やっほ〜(^^) この前はありがとうね〜
うん、ご飯ならokだよ〜」
一通のラインだ。
最初はなんのことだかわからなかった。
でも秒で察した。
この子、前に連絡先交換した子やんけ…
その子とは連絡先を交換した後、ご飯を誘うラインをしたが、返信が来なかったので諦めていた。
僕は思わず、分厚いチャーシューをスープの中に落とした。 そう、チャポンと。
そしてそれまで、ギルティーを犯し、傷を負ったはずの心はいつのまにか癒えていた。
つづく